仮面夫婦のはずが、怜悧な外科医は政略妻への独占愛を容赦しない


 澄み渡るような爽やかな青空の下で、杏は清香に挨拶を返す。

「おはよ。清香ちゃん」
「どうしたの、朝から暗いね。新婚さんのくせに」

 杏の隣に並びながら、清香が茶化すように言う。

 精一杯、笑顔で答えたつもりだったが、どうやらお見通しのようだ。

 清香は大学院に入って仲良くなった友人で、さばさばした物言いで、天然な杏に鋭いツッコミを入れたり、アドバイスをくれたり、まさに姉のような存在。ショートカットが良く似合っていて、今日もスキニーデニムを華麗に履きこなしている。スカートやワンピースばかり選んでしまう杏とは真逆。

 けれど、目指しているものは同じで、清香も杏同様、将来は臨床心理士になる身だ。だからちょっとした心の変化も気づかれてしまう。

 臨床心理士とは、心の問題を抱えた人の話に耳を傾け、解決に導いていく心理学の専門家のこと。

 大学四年を経て、その後二年間指定校とされる大学院で勉強し、受験資格を得る。杏も清香も、現在二年生になる。

 物心ついたときには、この仕事に従事したいと思い始めていた。きっと明の仕事を近くで見ていたせいだろう。


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