仮面夫婦のはずが、怜悧な外科医は政略妻への独占愛を容赦しない
すると、閑がさらに驚くべきことを告げた。
「でも、離婚されるんでしょ? 先生の机の引き出しに、お互いのサインが書かれた離婚届が入っていましたし。まさかこんなに早く離婚することになるとは、想像していませんでした。私からしてみればラッキーですが」
「えっ!?」
自分でも驚くような、大きな声が出た。離婚って、どういうこと?
たしかに大知に一度は離婚届を突き付けた。でも、それはお互い勘違いしていたわけで。
(そもそもどうして彼女が? 大知さんとどういう関係?)
杏の頭にまがまがしい考えが過る。
「でも仕方ないですよね。これ以上すがりついていては、岩鬼家に恥を塗ることになりますし。お父様のお怒りも、ごもっともだと思います」
(お父様? どうしてお義父さんが出てくるの……)
全然話が見えない。やはり、杏の知らないところで、ことが動いているということなのだろうか? 昨日の大知と拓郎の会話もそう……。
段々と顔が青ざめていく。足元はぐらぐらして、彼女をとらえる視界は滲んでいた。