仮面夫婦のはずが、怜悧な外科医は政略妻への独占愛を容赦しない
(今日は診察の日か?)
高血圧の薬を飲んでいるのは知っているが、あとはいたって健康だと聞いていたため、どうしたのだろうと気になった。
「親父」
声をかけると、不機嫌そうな表情で顔を上げた。
「あぁ、大知か」
「今日はどうしたんだ」
そう問えば、ハァと息を吐きながら席を立った。
「この病院は待ち時間が長いな」
大知に質問に答えず、ぼやきながらなぜか隅の方へと移動する。その間、こそっと「人間ドックにひっかかった」と、囁くよう告げた。健康に問題があるとバレたら選挙にも響くため、誰にも聞かれたくないのだろう。
「大事な時期に、ついてないよまったく」
恨めしそうにぼやいている。そんな拓郎に、切り込む。
「昨日電話で伝えた件だが、考えてくれたか?」
今日は患者として訪れている拓郎に、自身の要望を押し付けるような真似は少しはばかれたが、こうやって会うこともなかなかない。
拓郎はため息を一つ吐いた後、呆れたように頷いた。
「あぁ、お前に何を言っても無駄とわかってる。好きにしたらいい」