仮面夫婦のはずが、怜悧な外科医は政略妻への独占愛を容赦しない
「じゃあ、すぐにでも……」
「そんなことより大知、あとどのくらいかかる。時間がないんだ。なんとかならないか」
「無理だ。特別対応はしない」
そう言えば、チッと舌打ちがこぼれそうな顔で、外来の方を睨んだ。
「こんなに待たされるなら、伊東さんに頼んでなんとかしてもらえばよかった」
その発言に、ピクリと反応した。どうして、拓郎の口から閑の名前が出るのだ。拓郎と閑に接点なんてあっただろうか。
「あの子、気が利くし、美人だし、なかなか良い子だな。杏さんより、あの子のほうがよかったんじゃないか?」
「まるで話したことがあるような口ぶりだな」
「なんだ知らないのか。彼女とは何度か話したぞ。杏さんの実家の件を教えてくれたのは、あの子だしな」
「伊東が?」
いったいどういうことだ。確かにどうして拓郎が知っているのか、気になってはいた。
もしかして、拓郎がこの前病院に来ていたというのは、閑に呼び出されたから?
「今からでもあの子に乗り換えたらどうだ」
「それ以上、しゃべるな」
地鳴りのしそうな低い声でぴしゃりと言いきると、大知は大股で医局へと向かう。
(どうして伊東がそんな真似を……)
しかも大知に隠れてコソコソと。嫌な予感が過った。