仮面夫婦のはずが、怜悧な外科医は政略妻への独占愛を容赦しない


 なぜか清香のほうが残念そうで、眉の動き、目、口元から、心から心配しているのがわかる。清香は杏を自分のことのよう気にかけ、励ましたり時には怒ってくれたりする。こんなとき、清香がいてくれてよかったと切に思う。

「元々政略結婚みたいなものだったしね」
「でも、杏はずっと好きだったんでしょ? 結婚が決まったとき嬉しそうにしてたじゃない」

 そう問われ、杏はふと真っ青な空に視線を向けた。

 そうだ、清香の言う通り。杏はずっと大知が好きだった。それは、遥か昔にさかのぼる。

 大知と初めて会ったのは、今から十三年前、杏が十一歳のとき。明が勤めていた大学病院を辞め、北条病院を開院し、その記念パーティーを開いた日のことだ。料亭を貸し切り、たくさんの人を招いた。

 杏は小学生で、母の死から一年経っていたが、まだ立ち直ることができず、父の開院を祝う余裕はなかった。

 母は元々病弱だったこともあり、杏を産んでからも床に臥せることが多かった。かくいう杏もその体質を受け継いでしまったため、すぐに熱を出しては、完治するまでに時間を要した。

 学校も休みがちで、仲のいい友達を作ることもままならなかった。


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