仮面夫婦のはずが、怜悧な外科医は政略妻への独占愛を容赦しない
「はいはい。そのジャッジは帰って大知さんにしてもらいなさい。ほら、若い二人は帰った帰った」
シッシッと払うような仕草をされる。だが大知は、スッと明に膝を向け、深々と頭を下げた。
「お義父さん、そして志乃さん。少しお時間いいでしょうか」
いつになく真剣な態度に、場の空気が一瞬にして変わる。それを瞬時に感じ取った志乃が、慌ててテーブルに着く。遅れて明が、席に着いた。
志乃と明が隣り合わせ、その向かいに大知と杏。
「いきなり乗り込んできて、さらにお時間まで拝借して大変失礼だとは承知してます。ですが、聞いていただきたいことがあります」
いったい何事だとばかりに、明と志乃が目配せあう。杏もまったく見当がつかないようで、オロオロとしているのが感じ取れた。
そんな中、大知は凛としたたたずまいで続けた。
「こちらの病院をたたむと、杏から聞きました。よろしければ、岩鬼家で援助させていただけないでしょうか」
「大知さん……! そんな、滅相もないです」
隣にいた杏が驚きながら、声を上げる。そんな杏に落ち着いた声で語り掛ける。
「岩鬼家も北条家も家族だ。困ったときは支え合うのが当然だろ?」
「でも……」