仮面夫婦のはずが、怜悧な外科医は政略妻への独占愛を容赦しない


「これからはどんな些細なことも、伝えあっていこう」
「あの……じゃあ早速なんですが、一つお願いが」

 目元だけ上げ、杏が遠慮がちに切り出した。

「なんだ、なんでも言ってくれ」
「その……寝室、一緒にしませんか?」

 視線をキョロキョロさせながら、恥ずかしそうに言う。その仕草に、胸をぎゅっと掴まれる。

「もちろんだ。ただし、嫌だって言っても離さないけどそれでもいいか?」
「もちろんです!」

 張り切って答える杏に心絆されると、彼女の足元をひょいとすくい上げた。

「ひゃっ、ちょっ、大知さん!? 重たいですから」
「今言ったこと、もう忘れたのか? 嫌だって言っても離さないと」
「……もう」

 こつんと大知の肩を小突くと、そのまま大知の首にしがみついた。

「絶対離れませんよ。知りませんからね」
「あぁ、のぞむところだ」
 
 ふふっと笑い合い、杏の額にそっとキスを落とすと、二人の影は静かな寝室へと消えて行ったのだった。



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