仮面夫婦のはずが、怜悧な外科医は政略妻への独占愛を容赦しない
だがやはり一人の夜は寂しく、そんなときはメダカたちに癒してもらおうと考えている。
尻尾が赤いメダカを数匹購入すると、二人で店を出た。三月の柔らかな日差しが二人を温かく見守る。木々は青々と茂り、街中は家族やカップルで溢れていた。
「ペット飼うの初めて。今日からよろしくね」
透明な袋の中で悠々と泳ぐメダカに向かって、嬉しそうにそう口にする。あとはこの子たちを、すでに用意してある水槽に移すだけ。すると、大知がぼそっと呟いた。
「メダカばかりにかまけないでくれよ」
「もしかしてメダカに妬います?」
「だったら悪いか?」
まるで子供のような態度に、ぷっと噴き出してしまった。メダカを飼おうと言ったのは大知なのに。
普段、知的で冷静な彼だが、杏が絡むとすぐこれだ。けれど、そんな大知も愛しいと感じてしまう。
「残念ながら、今も昔も、大知さんが一番です」
隣でぷらぷらと下がっていた大きな手を握りしめながら、そう口にする。長い長い片思い歴を舐めてもらっては困る。
「悪いが、俺の方が先に杏を好きだったと思う」
「それはないです。私の方が先です」
背伸びをしながら、真顔で抗議する。
そんな杏を見て、今度は大知がくくっと噴き出した。