仮面夫婦のはずが、怜悧な外科医は政略妻への独占愛を容赦しない


「子どもができたら、めちゃくちゃ妬きそうだ」

 しまいには、まだ見ぬ我が子を想像してヤキモチを妬き始めた。しかもどうやら真剣に悩んでいるらしく、眉間に深い皺が寄っている。これがあの大病院の跡取りで、優秀だと言われている医師なのかと疑いたくなる。

「気が早いですよ、大知さん」
「こういうことは、今から覚悟しておかないと。でも、まだ杏を独り占めしていたいし、しばらくふたりでいいな」

 な?と賛同を求められ、曖昧にへへっと笑う。

 大知との子どもなら絶対にかわいいし、いつかはふたりの子を持ちたいと思っている。大知の父としての顔も見てみたいのも本音。

「でも毎晩杏を抱いてたら、すぐにできそうだよな」
「休日の昼間から変なこと言わないでくださいよ」
「変なことじゃないだろ。毎晩愛し合ってるなんていいことだろう」
「もう」

 大知の腕を小突き、顔を真っ赤にしながら抗議すれば、大知はにやりとからかうような笑みを向けた。

 それを向けられた杏の心は、計算されたかのように弾む。この人には敵わない。毎日好きになって、毎日新たな発見がある。きっとこの先も、どんどん好きになっていくのだろう。


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