仮面夫婦のはずが、怜悧な外科医は政略妻への独占愛を容赦しない


 だが大知はまったく気に留めず 、まっすぐ佐藤を見据えている。

 未破裂脳動脈瘤には、三つの治療法がある。

 まずは開頭クリッピング術。次に大知が言う、血管内治療、そして 経過観察。どの方法が患者にとって最善かを、さまざまな職種を交え話し合う。

 この患者に至っては、執刀医である佐藤の意見が通りかけたところで、大知のあの発言というわけだ。

「だが、もし破裂したらどうするんだ」

 ムキになって反論する佐藤に、大知は小さくかぶりを振る。  

「過去の日本人のデータに基づいて予測される年間破裂率は、一年間あたりわずか四パーセント 。糖尿病患者が、術後に高血糖により免疫力が落ち、感染症を併発したり、傷が化膿したりするリスクの方がはるかに高い。そうですよね? 内分泌内科の、高田先生」
「へっ!? は、はいっ!」

 突然話を振られた内分泌内科の高田が、怯えたように首を縦に何度も振る。その様はまるで壊れたおもちゃのようだ。高田は体の線が細く、いつも疲れたような顔をしているため、スタッフから同情の視線が集まる。

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