仮面夫婦のはずが、怜悧な外科医は政略妻への独占愛を容赦しない
「杏」
おろおろとしていると、大知が杏の両手をシーツに縫い留めた。
「え? な、何を……」
万歳の状態にされたかと思うと、唇が触れるか触れない距離まで大知が迫ってきた。肉食動物のような獰猛さを孕んだ瞳に囚われ、杏の目が涙目になり始める。
「こっちの面ではまだ子どもだと思っていたが、煽ることを知っていたとはな」
「煽るってどういう意味ですかっ……んんんっつ?」
唇を強引に啄むと、昨夜のような大人のキスが降ってきた。
「はっ、なっ……」
「杏のせいでおさまりがつかなくなった。悪いが、もう一度抱かせてくれ」
「きゃっ」
杏の返答も聞かず、まるで飢えたライオンのように、彼女の華奢な体に貪りつく。でも素肌を這う唇は優しく、それだけで杏の体に潤いをもたらしていく。
「あっ、んん、やっ」
「いい声。もっと啼かしたくなるな」
ぞっとするような色気のある重低音。それだけで、下腹部がびりっと痺れるような気がした。
辺りはすでに明るくなっているというのに、大知のエンジンはどんどん加速していく。一度付いた欲望の火は、吐き出すまでたぎ続ける。それが雄というもの。だがそんな事情を、純真な杏が知るはずもない。