仮面夫婦のはずが、怜悧な外科医は政略妻への独占愛を容赦しない


「トーストでいいか?」
「はい。あ、私サラダ作りますね」

 テキパキと用意し、二人で朝食を囲む。こんな穏やかな時間を過ごしていると、もうすぐ離婚する二人とは思えない。

 大知は、いつ出すつもりなのだろう。いろいろと手続きもあるし、一応聞いておいた方がいいだろう。

「あの、大知さ……」

 顔を上げ、切り出したところで、大知の仕事用の携帯が鳴った。

「悪い。病院からだ」

 杏に断りを入れ、素早く電話を取る。その顔は既に医師の顔で、さっきまで杏に意地悪を言って困らせていた男と同一に見えない。

「あぁ、そうか。で、家族には?」

 大知は相槌を打つたび、深刻そうな表情になっていく。

「わかった。すぐに向かう」

一分ほどで電話を終えると、慌てた様子で立ち上がった。

「悪い。受け持ちの患者が急変した。すぐ出ないといけなくなった」
「そうなんですね。わかりました」

 身支度もそこそこに、大知はかけてあったジャケットを急いで羽織ると、玄関へと向かう。その後姿はもはや戦場に向かう戦士のよう。


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