仮面夫婦のはずが、怜悧な外科医は政略妻への独占愛を容赦しない
ICUで急変した患者の処置を終えると、医局に向かう。
急変した患者は広瀬涼太、十三歳。学校から帰る途中、車とぶつかり、五メートルほど飛ばされ意識不明の状態で運ばれてきた。
CTの結果、外傷性のくも膜下出血を起こしていて、すぐにオペと適応となった。さきほど意識の混濁が見え、すぐに来てほしいと呼ばれたのだが、処置の甲斐あり何とか落ち着いた。
だから急変の連絡を受けた時は、普段冷静沈着な大知も慌てた。子どもが入院したりオペをしたりするのは、やはり心が痛む。親御さんの気持ちを考えると、なんとしても助けたい気持ちが大きかった。あとは意識が回復するのを祈るばかり。
「岩鬼先生」
今日の予定を頭で考えながら廊下を足早に歩いていると、背後から閑が追ってきた。
「おはようございます。今朝はお早いですね」
「あぁ、伊東か。ICUの患者が急変したんだ」
「それは大変でしたね。お疲れ様です」
いつものクールな調子で、大知に労いの言葉をかける。
「あの、もし朝食がまだでしたら、これどうぞ」
手に持っていたコンビニの袋を大知に差し出す。中にはおにぎりやパンなどが入っていた。