仮面夫婦のはずが、怜悧な外科医は政略妻への独占愛を容赦しない


「いや、平気だ。朝食はすませて出てきたから」
「そうですか。奥様の手料理ですか?」
「まぁ、そんなところだ」

 と言っても、ほとんど残して出てきてしまったから申し訳ない。せっかく朝から食卓を囲めたというのに。

 やはり、顔を合わせて食事をするというのは、心にも体にも良さそうだ。どことなく、大知の気持ちが浮ついているのがわかる。

 さっきICUのナースが『鬼先生、今日機嫌よくない?』と噂しているのも聞こえた。機嫌がよかろうが悪かろうが、極力態度に出さないようにしているのに。

「奥様って、確か北条病院の娘さんでしたよね」
「あぁ、よく知ってるな」
「もちろんです。脳外の先生方の情報はご家族のことを含め、完璧にインプットされてます」

 すまし顔でそう言う閑に、苦笑いをこぼす。常にアンテナを張っていて、アップデートを怠らない。これも秘書魂というやつなのだろう。

 大知が結婚した時、その話題は瞬く間に院内中に広まった。

 「あの鬼を落としたのは誰だ」とか「実は狙っていたのに!」など、三者三様の言葉が飛び交った。

 そのあと二人で院内報に「結婚しました」と、載ったため、さらに大騒ぎになったのだ。


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