仮面夫婦のはずが、怜悧な外科医は政略妻への独占愛を容赦しない


 杏からメッセージが届くことはほとんどない。仕事中はとくに。なにかあったのだろうかと不思議に思いながら開く。

【大知さん、お仕事中にごめんなさい。今夜お時間いただけますか? 大事なお話があります】

(大事な話?)

 大知の頭に、嫌な予感が駆け巡った。

「先生、どうかされました?」

 そんな大知を察し、閑が声をかける。

「いや、なんでもない。プライベートだ」
「そうですか。失礼しました」

 閑が綺麗な姿勢で頭を下げる。

 それを横目に捉えた後、大知はぼんやりと考えていた。

 杏とはここ数日、顔を合わせていない。生活時間が違う し、そもそも杏に嫌われている気がする。結婚して一年も経つのに、目が合ってもすぐにうつむき、いまだ寝室も別。

 自分がなにかしてしまったか?と考えるが、同じ家にいるにもかかわらず、ほぼ接点がないため、それすら予見できない。

 気を取り直すように小さくかぶりを振ると、大知は到着したエレベーターに颯爽と乗り込んだ。



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