仮面夫婦のはずが、怜悧な外科医は政略妻への独占愛を容赦しない
それから物の数分で戻ってきた大知は、本当に杏が眠るまで傍にいてくれた。
いてくれと言ったのは自分なのに、こんなにも側にいられると、緊張と興奮で眠るに眠れない。熱もどんどん上がっている気がする。
寝ようと何度も試みるも、大知が気になって目を薄っすらと開けてしまう。ベッド脇に肘をつき、黙って隣にいる大知の顔はすごく綺麗で、つい見たくなるのだ。
杏のために時間を割き、傍にいてくれるのだと思うと、さらに嬉しくてたまらなかった。
「どうした?」
「あ、いえ……」
これじゃあ、大知の大切な時間を無駄に奪ってしまうだけ。早く眠らなきゃと、杏はくるっと背を向け、無理やり目を閉じた。
そうこうしていると、睡魔が襲ってきた。思考がどんどん遠のいていく。夢か現実が、判別が難しくなって来た時ふと「杏、抗わせてくれないか」と、枕元でつぶやくのが聞こえた。
だがこの時の杏に聞き返す余裕はなく、意識はすでに夢の中。杏は大知の覚悟も知らず、そのまま深い眠りに落ちたのだった。