仮面夫婦のはずが、怜悧な外科医は政略妻への独占愛を容赦しない
翌朝、目が覚めると大知がベッドに寄り掛かったまま眠っていた。
(大知さん……朝まで一緒にいてくれたんだ)
無防備な大知の寝顔を見つめたまま、口元がふっと緩む。
ベッドサイドのテーブルには、経口補水液や、タオルでくるんだ保冷剤、解熱剤に体温計が並んでおいてある。一晩中、様子をみてくれていたのだろう。
そのお陰か、体が少し楽になったような気がする。体感的に、熱も三十六度八分といったところ。
「んっ……杏?」
大知の瞼がかすかに動いたと思ったら、すぐに目がぱっと開いた。
「杏、大丈夫か?」
「はい。昨日より、良さそうです。それより、すみません。こんな窮屈なところで寝かせてしまって」
「医局のデスクに比べたら広いもんだ」
言いながら、大知はグッと伸びをした。大きな体躯を伸ばし、無邪気なあくびをする。
「腹、減ってないか? 何か作ろう」
「それなら、私も……」
慌ててベッドから出ようとしたら、体の前で手をかざされ、止められてしまった。
「いいから。大人しく寝てて」
「何から何まですみません」
「言ったろ? 抗わせてほしいって」
そう言い残すと、大知は寝室を出て行った。
(抗う? なんのことだったけ)
杏はドアの方を見つめ首を傾げる。