仮面夫婦のはずが、怜悧な外科医は政略妻への独占愛を容赦しない


 朝食を済ませ、宣言通りお昼ごはんにお味噌とおにぎりを作ると、大知に持たせた。

「はい、これ。お弁当です。おにぎりの具は、焼き鮭と梅おかかにしてみました」
「ありがとう。じゃあ、行ってくる」

 言いながら、玄関のドアに手をかける。だがすぐ、ドアノブに手をかけたまま振り返った。

 どこか名残惜しそうな視線が杏をとらえたと思ったら、大知の口から意外な言葉が飛び出した。

「なるべく、早く帰る」

 これまで聞いたことのない発言に、杏は目を丸くする。結婚してからも夜中に帰ってくることも多かったし、数日帰らないこともあった。昨日といい、いったいどうしたのだろう。

「なぁ、杏。俺はこれまでろくな夫じゃなかったと自覚している。離婚届を突き付けられるのも仕方ないって思ってた。でも、抗いたい。杏、俺にチャンスをくれ」
「大知さん……」
「離婚はしない」

 それだけ言い残すと、大知は急ぎ足で出て行った。

 まるで反論は聞かないと言ったような態度に、杏は一人呆然としていた。 


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