仮面夫婦のはずが、怜悧な外科医は政略妻への独占愛を容赦しない


「じゃあ行ってくる。今日は学校は?」
「今日はお昼からなので、お掃除してからでかけようと」
「そうか。わかった。じゃあまた夜」

 チュッと額にキスを落とすと、パソコンや資料、そして杏の作ったお弁当を抱え、出て行く。彼の背中を見送ると、杏も掃除に取り掛かった。

「そうだ、天気もいいしお布団干しちゃおう」

 部屋中の窓を開け、洗濯をして布団を干す。
 
 空には爽やかな秋の空が広がっていて、葉の色が変わり始めている。

 きっと大知とも、こんなふうに何度も色や形を変えながら、夫婦になって行くんだろう。家族が増えたり、ときに喧嘩したり。未来を想像して、思わず顔がにやけてしまう。

 もう二人を揺るがすようなことは起こらない。杏はこの時、そう信じて疑わなかった。

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