仮面夫婦のはずが、怜悧な外科医は政略妻への独占愛を容赦しない
夜中もドタバタとした時間が続き、仮眠もできず、気づけば朝だった。
徹夜には慣れているとはいえ、杏との幸せな時間を知ってしまったため、このとき医師になって初めて家が恋しいと感じた。
杏はまだ寝ているだろうか。何をしているんだろう。そんなことばかり考えている自分に気付く。
朝七時。ひと段落した大知は、外来が始まるまで仮眠をしようと、病棟から医局へと向かった。
と、そこにプライベート用のスマホが鳴った。見れば拓郎だった。そういえば、かけたりかかってきたりと、ずっと入れ違っていたことを思い出す。
「もしもし」
院内を歩きながら電話を取る。
「大知か。ちょっと話がある」
元気か? という挨拶もなく、いきなり要件を突き付けてくるのは、昔から。
だいたい話とは? はっきり言って、こっち側には何の用事もない。
「病院の前の喫茶店にいる。ちょっと出てこい」
「今から?」
「あぁ。時間がないから早く来い」
まったく相変わらず横暴だ。だが後回しにするとさらに厄介だ。大知はくるりと踵を返すと、拓郎が待つ喫茶店へと向かった。