国際弁護士はママとベビーに最愛を誓う~婚姻解消するはずが、旦那様の独占欲で囲われました~
「あの、久嗣さん……」
「久嗣でいいって言っただろ」
「あ……」
私を見つめる彼の瞳が揺れていた。彼はウイスキーをまだ一杯しか飲んでいないから、酔っているわけではないだろう。これは後者の誘いがある線が濃厚なのだろうか。
「どうしてだろうな。こんなに積極的な気分になるのは初めてだ」
「……積極的って?」
「この後空いてる?って聞く気になってる」
嘘みたい……ワンナイトの誘いで決定した。彼の左手が近づき、私の右手に絡まる。息が止まるほどドキドキしている。
誘いにのってみたい。日本にいたら決して交わっていなかった久嗣さんとこれまでになかった体験をしてみたい。
「……久嗣さん」
「久嗣って呼んで」
繋がった指先に神経を持っていかれながらも、彼の瞳に映る自分に問いかける。
〝今夜で終わっていいの?〟
彼にそのつもりがなかったとしても、勇気を出さなければ本当にこれきりで終わってしまう。
私はバッグからペンを取り出し、スケジュール帳の最後のメモページを破りサラサラと走らせた。
「Hisashi.」
携帯のナンバーを書いたそれを折り、彼のジャケットの胸ポケットへと差し入れる。