国際弁護士はママとベビーに最愛を誓う~婚姻解消するはずが、旦那様の独占欲で囲われました~
指を顎にあてながらすっとぼけて尋ねると、彼は目を細め、重たいトーンで「加能久嗣」と答える。

「そうでしたね、ごめんなさい。こちらの弁護士さんだったなんて」
「……また会えるとは。ここでなにを?」
「仕事でトラブルになった方がこちらにお世話になっていまして。私にも話を聞きたいと呼ばれたんです。これきりのようですけど」

地上へ着いた。この会話中、私はもういっぱいいっぱいだった。

「なら、今夜食事でも行かないか?」
「……は」

歩き出すと同時にいきなり誘われ、心臓がひっくり返るかと思った。
この人、どういうつもりでまた私を誘っているんだろう。一年だよ? 一年も私を放っておいたのに、よく今更誘えるものだ。私はずっと待っていたのに。
あのあといつ日本へ帰ったのか、ニューヨークの弁護士にはなれたのか、聞きたいことは山ほどある。
弁護士事務所に来ることは、後にも先にももうこれきりだろう。ここで断って別れたら、彼と会えることはもうないのだと思う。そしたらまた、悶々とするつらい日々に逆戻りするのだろうか。
私は即答できずに事務所から大通りへ出る道を歩き続ける。

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