国際弁護士はママとベビーに最愛を誓う~婚姻解消するはずが、旦那様の独占欲で囲われました~
「いらないっ。キャンセルしなくていい」
「もうしたから。今日は六時には帰る」
彼は玄関の上にいた私を引き寄せた。
「愛してるよ」
額にキスをされた。突然のことに私は微動だにできず、去っていく彼の背中に「行ってらっしゃい」さえ言えなかった。
まだ前髪にふわりと掠めた彼の感触が残っていて、思わず指で触れる。こみあげた感情を堪えようとしたが、脚の力が抜けて床にへたりこんだ。
「へ……? なに……?」
〝愛してるよ〟なんて、今まで一度も言われたことがなかった。
この間、好きだと言われてから感情が揺れっぱなしだったのに、不意を突かれた気分だ。
甘い台詞を言う空気じゃなかったのに、勝手すぎる。これ以上私を弄ぶなんていったいなにが目的なの。離婚の阻止? 凌太の親権?
落ち着こうと深呼吸をするが、細く吐いた息が震えている。
ちょっと落ち着いて、考えよう。
彼が言った『別れたくない』が本当なら、今後も離婚せず一緒にいられる。
出張へ行く回数を減らして、こうして愛情表現をしてくれるのなら、私にとってなにも不満はない。