暗い暗い海の底
「はい、ありがとうございます」
 そう言った後、またシャワーの流水音が聞こえてきた。
 私は温かい飲み物を準備するために、ダイニングキッチンへと向かった。

 コポコポとコーヒーメーカが音を立てている。そして漂う香ばしい香り。この瞬間が私は好きだった。

「すいません。お言葉に甘えてしまいました」
 首元にタオルをかけ、髪の毛を拭きながら彼がリビングへと入ってきた。
「どうぞこちらに。今、コーヒーが入ったところですから。お飲みになりますか?」

「はい、いただきます。だけど、オレ。その、ブラックじゃ飲めなくて」

「お砂糖とミルク、準備しますね」
 その言葉に安心したのか、彼は子犬のような可愛らしい笑顔を浮かべていた。

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