暗い暗い海の底
5.
◇◆◇◆

 すれ違う人たちの視線が突き刺さる。
 破けたワンピースの上にカーディガンを羽織ってきたのだが、やはりその恰好は異質だったのだろう。
 電話はしないと約束していたのに、家から逃げた途端、彼に電話をかけていた。

 ――助けて……。

『今、どこにいる?』

 ――あなたと、あのとき出会った場所です。

 この恰好で動くのは目立つと思い、彼と出会ったペット霊園へ来ていた。我が家ではペットを飼っていなかったから、夫はここを訪れたことはない。私は彼が膝を折って祈りを捧げていた場所で、あのときの彼と同じようにその場にうずくまっていた。

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