暗い暗い海の底
「これに捕まってください」

 私が投げた浮輪は目的の場所にまで届いたようだ。暴れていた人間がそれに捕まったことで、水飛沫が落ち着いた。それを見て、私も安心する。ゆっくりと紐を引っ張り、浮輪をこちらへと引き寄せる。

「そこはもう足がつきますから」
 私の言葉が聞こえたのか、その人は足をついて立ち上がった。

 ――キラキラ男……。

 そう、その人は一目で私の心を奪った、キラキラと光っていた彼だった。

「あ、ありがとうございます。その、オレ、調子にのりすぎて」

「はい。これから、気を付けてくださいね。穏やかな川ですが、ところどころ流れの早い場所もありますし、突然深くなっている場所もあるのです」

「すいません、その、濡れてしまいましたね」

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