やっぱり天使にゃなれないぜ
 だから同業者によっては、上手く依頼者を言い包めて、依頼を断ってしまう事も珍しく無い。今回の依頼者は、明らかに後者のパターン。それでも、こうして依頼を受けてしまっている現実が、俺の経済状況を如実に表しているワケだ。
 腕時計を見ると、間も無く午前四時。俺は寒さで自然と縮こまりがちになりそうな全身を一度思いっ切り伸ばしてみる為に、靴を履いて車から降りた。
「あぁーーーっ」
 全身に力を入れ、限界まで背伸びをすると背骨がボキボキと音を立てた。俺はツンと冴えた冷気を口や鼻腔から目一杯吸い込んで、そのまま一気に肺へと送り込む。たちまち冬の冷気が、俺の全身に張り巡らされている毛細血管の隅々にまで行き渡っていくのが感じられ、グニャグニャに淀み切っていた俺の脳味噌は、一瞬にしてシャンと覚醒していった。だが、ドロドロだった脳味噌が覚醒してしまうと、今度は脳味噌と一緒に鈍りまくっていた五感までがちゃっかり覚醒してしまい、キリキリと凍て付く様な気温の低さが骨身に沁みてくると同時に、俺は巨大な冷凍庫の中に放り込まれ、スッポリと全身を冷気が包み込んでいく様な不快な錯覚に囚われた。
「あぁ寒い、寒い……」
 身体の芯からブルブルと湧き上がってくる震えを抑え切れぬままに、真っ白な息を吐きながら俺はバタバタと車に乗り込んだ。
「あと2時間だ」
 自分に暗示を掛けて、報酬をキッチリ受け取る為のラストスパートに俺は突入した。

「ハイ。三、二、一、終了」
 腕時計のアナログ盤を回り続ける為だけに作られたチョコレートブラウンの長針と短針が精一杯に背伸びを決め、今回の依頼の完了と今までの時間的拘束から開放される事を俺に教えてくれる午前六時を指し示した。
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