Dear my girl
* * *
沙也子が安心して泣ける場所を与えてやりたい。
そう思っていたのに、泣かせているのは他でもない自分で、涼元一孝は愕然とした。
沙也子がこんなに泣くのも初めて見た。
クリスマスからこっち、彼女は何か思うところがあるのか、微妙に距離を置かれていることには気づいていた。
確かに浮かれすぎていた自覚はあり、一孝はあまり近づかないよう、距離感には注意を払った。まだ気持ちがバレるわけにはいかないからだ。
それなのに。
『わたしのこと、好きなの?』
核心を突かれたことに動揺し、そして勘違いだと言われたことで、カッと腹が立った。
今まで一孝がどんな気持ちで、どんな誓いで沙也子を想っていたか。
何も知らないくせには、こちらのセリフだった。
もう全てを話すしかないと思った。
結果、沙也子に蛇蝎のごとく嫌われることになったとしても。
沙也子は血の気の引いた顔で一孝を見つめている。
今日は天気も良く気温も高めだが、1月下旬、季節は大寒。一孝はブレザーを脱いだ。
「話すから、ベンチに座って」
沙也子は弱々しく頷き、ベンチにちょこんと座った。その膝にブレザーをかけてやる。
「す、涼元くん。わたし、大丈夫だから」
「暑いんだよ。ちょっと持ってて」
セーターを中に着ていたので、さほど寒さは感じない。実際、沙也子を探して走りまくったので暑かった。
袖をまくる一孝を見て、沙也子はしぶしぶブレザーを受け取った。
その隣に腰を下ろし、一孝は腕を組んだ。軽く息を吐く。
「どこから話すか……。まず、俺はお前が好きだったから、引っ越すと聞いてショックを受けた」
「えっ」
目を丸くする沙也子を無視して、一孝は続けた。
「……何も知らなかったから、手紙が来るものと信じてた。何ヶ月も待っても待っても来なくて、何かあったかと心配したけど、それでも1回くらい出せんだろと思ったら、急にどうでもよくなった」
沙也子が悲しそうに顔を歪める。
これから、さらに嫌な気持ちにさせるかと思うと、心が鉛のように重くなる。しかし、全部話すと決めている。
一孝は胸いっぱいに息を吸い込んだ。
「それで、大槻が見かけた通り、グレたってやつ。しばらく夜遊びしてたら、家政婦が親父に報告した。親父は、谷口と連絡が取れれば俺が落ち着くんじゃないかと思って、住所を調べたんだ。興信所で」
「こ……興信所?」
驚愕の表情を浮かべた沙也子は、青くなって声を震わせた。
――ドン引きである。