Dear my girl

「気持ち悪い……よな」

 すべてを話したからには、嫌われる覚悟はできている。
 しかし、今後の生活をどうすればいいのか。

(勉強は森崎を通して見るとして……。あとは、家でも顔を合わせないように気をつけてやれば……)


 沙也子への想いをなくすことはできない。
 これからも守りたいし、好きでいることだけでも許してほしいのだが。


 それをどう説明しようか考えていると、沙也子は肩を震わせた。

「それでも……、全部知ってるのに、わたしのこと、好きだっていうの?」

 潤んだ瞳を向けられ、胸の奥がずきりと痛んだ。

「好きだよ。ずっと好きだったし、今だって好きだ」

「あんな……、べたべた触られて、わたし、汚いのに、」

「なっ、汚くなんかねぇよ! お前は被害者なんだ。なにも悪くないし、なにも損なわれていない」


 伝えたいことが、形なく胸に溢れるのに、想いをうまく言葉にできないのがもどかしかった。

 いっそ、この心の中を開いて見せられたらいいのに。


 沙也子はぽろぽろと涙を零すと、苦しそうに眉を寄せた。

「じゃあ、わたしも、涼元くんのことが好きって、言ってもいいの?」

「……。……え、」

「やっぱり……、だめなの?」

 固まっているうちに、よからぬ方へ話が進みそうになり、一孝はあわてて沙也子の手を握った。

「だ、だめじゃない。全然だめじゃない」

 沙也子が握られた手を見て頬を染めたので、急いで手を離した。

「悪い……」

 少し寂しそうな顔をした彼女は、ちらりと上目で一孝をうかがうと、そっと手を重ねた。

「怖く、ないよ。涼元くんなら、たぶん何されても……。し……下心があったとしても」

 あまりの急展開に、鼻血が出そうになった。

「谷口……、俺のこと、好きなの?」

「……うん。でも、わたし、ああいうことがあったから、言っちゃだめだと思ってた」

 一孝は、あらためて驚きに目を瞠った。

(……全然、気づかなかった)


 昔から、沙也子は人の顔色には敏感なのに、自分の辛い気持ちは隠すところがある。それはポーカーフェイスがうまいからなのだ。

 ふだん表情豊かなくせに、本当に肝心な心は綺麗に隠してしまう。

 上辺だけでなく、彼女の心もしっかり見つめなければと一孝は思った。


 とはいえ、本当に……? 

 あまりにも片思いが長すぎて、一孝はどこか夢心地だった。今隕石が落ちてきても不思議ではないくらいだ。


「いつから、好きだった?」

 気になって尋ねてみれば、沙也子は顔を赤くした。
 ……可愛すぎる。

「ずっと、特別だとは思ってたけど、恋かどうかは分からなかった……。誤魔化しようもなく好きだなあって思ったのは、文化祭だったかな」

「……マジ?」
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