Dear my girl
沙也子は一孝とのことを、彼の父にも報告するべきだと思った。
一孝には内緒でメールを送り、彼がバイトをしている時間にスカイプをすることになった。
一孝の父、誠司の厚意によって生活の面倒を見てもらっているのに、息子さんと付き合うというのは心証がよくないのではないかと思ったし、誠司の率直な意見を訊くには、沙也子ひとりの方がいいと思ったからだ。
かなりの勢いで緊張していたものの、誠司は、それはそれは嬉しそうに歓迎してくれた。
『一孝からも聞いてるよ。もともとそうなったらいいなと思っていたから、私としても嬉しい』
「ほ、ほんとですか?」
沙也子の肩から、ほーっと力が抜ける。
涼元くんからも話してくれたんだなあと思っていると、誠司は表情をあらためた。
『それより、興信所だのおばあさんの時のことなど、粘着質な親子で申し訳なかった。言ったところで許されるわけではないけど、興信所については私の信頼筋だから、その点だけは安心してほしい。普通はあそこまで調べられないはずだ』
沈痛な面持ちで深々と頭を下げられ、沙也子はあわてて首を振った。
「そんな……! おばあちゃんの時は、本当に辛くて困っていたところにおじさんが来てくれて、とても嬉しかったんです。感謝してもしきれないくらいです……」
そこまで言ってから、沙也子は小さく笑った。
「興信所はびっくりしましたけど。でもそのおかげで、わたしはすっきりとした気持ちで、一孝くんに向き合えています」
『憎まれても仕方ないと思っていたから、そう言ってくれるとありがたいが……。沙也子ちゃんはいい子だから、ちょっと心配だなあ。まあ、一孝がついていれば、番犬くらいにはなるだろう』
「いつも、いろいろ助けてもらってます」
彼の父とこのような話をするのは、正直少しこそばゆい。
沙也子がはにかむと、誠司は目を細めて苦笑した。
『節度は必ず守ると、あいつの方から言ってきたから、そこは信用してやってもいいと思ってるけど。それは置いておくとして、もし何か困ったことがあれば、遠慮なく頼ってほしい』
「えっ?」
最初なんのことか分からず聞き返すと、誠司は穏やかな笑みを浮かべた。
『深雪さんは、一孝にいつも「家族みたいなものだと思っていつでも頼って」と言ってくれていたそうだね。私も同じ気持ちだよ。顔を合わせることは少なくても、沙也子ちゃんのことは、娘同然だと思っている』
胸の奥が、じんとあたたかくなった。
沙也子はうっすらと涙を浮かべ、「はい」と微笑んだ。