Dear my girl
エピローグ
心配かけたお詫びとお礼として、沙也子は大槻と黒川に学食をご馳走するつもりだった。
それなのに、それを聞いた一孝が先に食券を買ってしまった。
黒川が「さっそく彼氏気取りか」とからかい、一孝にメインのおかずを横取りされるなどしていたけれど、ほのぼのと楽しい昼食を過ごした。
律にも声をかけたものの、お昼は先約があるらしく、学校帰りにいつものパンケーキ屋に寄ることにした。
「私まで全部出してもらっちゃっていいの? 気にしなくていいのに」
フルーツたっぷりのパンケーキを前に、律は恐縮していたが、沙也子こそ恐縮だった。
「実はクリスマスに、涼元くんからここのお店のギフトカードをもらったの。けっこうな金額だし、律にも使っていいっていうから。わたしのお礼なのに、わたしはみんなに何もできてなくて、逆に申し訳なくて……」
沙也子がしおしおと項垂れると、律はそういうことかと苦笑した。
「じゃあ、遠慮なく。いいんじゃない? 特に使う予定もないのに、バイトばっかしてたんでしょ。沙也子のために使わずいつ使うのかって感じよ」
「暇つぶしって言ってたけど……」
「なに考えてたか、だいたい想像つくけどねー。これからはバイト減ると思うよ」
もしかしたら、夏休みの頃など、わざと家にいないようにしていたのだろうか。
そのおかげで、怖気づくことなく新しい生活に慣れることができたのは事実だった。
沙也子の状況を全て知りながらも、生活を受け入れてくれた彼は、きっと沙也子が思う以上に気を遣ってくれていたのかもしれない。
なんだか切ない気持ちでパンケーキにナイフを入れる。
(これから、少しずつ返していけるといいな。ううん、もらった以上のものを返したい……)
そう決意しながら、フルーツの熟成された甘みを堪能し――、沙也子はそうだ!と思い出した。
「お昼、吉田くんと食べてたんだね。また漫画の話で盛り上がったの?」
吉田の頑張りが伝わりつつあるのかと思い、沙也子はわくわくした。
しかし、律はあっさりと否定した。
「またって。盛り上がったことないけど。一緒に食べたのは、吉田が今日こそできそうな気がするっていうから。顔を見てるため」
(顔って、まさか……)
沙也子が胡乱な目を向けると、律はうっとりと微笑んだ。
「なんていうか、BL的に好きな顔なのよね。脳内にスチル焼きつけるつもりでいろんな表情してほしいんだけど、アレを超える奇跡の一枚が出てこなくてさー」
たった一度だけ、律好みのヤンデレ系の表情を目撃したのだという。
無意識でも一度はできたのだから、これからも拝めるはずだと律は確信しているらしい。