Dear my girl

「まさか、そういう事情、吉田くんに言ったの?」

「腐女子だなんて、言えるわけないじゃん。でも好きな顔立ちだとは伝えてある。吉田は変なふうに私のこと勘違いしてこないからありがたい……。こんな人と出会いたかった」

「うわ……」

 沙也子は吉田に深く同情した。
 それで、理由も分からないまま、律の要望に応えようと努力しているのだ。

 また沙也子に探りを入れてくるかもしれない。
 その時はどう答えればいいのか……。

 吉田の難儀すぎる恋に思いを馳せていると、律は意味ありげにニヤッとした。

「ところで、バレンタインはどうするの? 付き合って初めてのバレンタインは」

「どうって……」

 沙也子は頬が熱くなるのを感じながら、わざと顔をしかめてみせた。

「涼元くん、甘いもの苦手だし……。テスト勉強真っただ中だから、そんな雰囲気じゃないっていうか。むしろチョコなんてあげたら、浮ついてる場合かって言われそうな気がする」

 胸のどきどきを誤魔化すように、苺を口に入れる。
 美味しいものを食べながら表情を引き締めるのは難しい。気を抜くと緩んでしまう。

 付き合い始めたら、少しは甘くなるのかなと思っていたけれど、そんなことはなく。
 一孝は、わりといつもの彼だった。沙也子はそのことに少しホッとしていた。

 それでもバレンタインくらいは、何かした方がいいかもしれないと思っていたところだった。

 実のところ、昨夜ベッドの中で、ハンバーグをハートの形にしてみようか、なんて考えていた。
 ……深夜テンション恐ろしい。
 日常に戻って考えてみると、それがどれだけイタいことか、痛いほどに気づいた。


 そんな沙也子の葛藤に気づいているのかいないのか、律は楽しそうにパンケーキをつついた。

「ふーん。浮ついてるのは、どっちだかって思うけど。ま、あまりに幸せそうなのもなんだかしゃくだし、チョコ貰えなくて落ち込む涼元を見るのもいいかもね」

 沙也子がチョコを渡さないくらいで落ち込む一孝など想像できなくて、「ないない」と笑った。


(でも……、もしも欲しいって言われた時に、用意してなかったら……)


 例え彼の手に渡ることがなくても、自分で食べればいいのだ。

 沙也子はバレンタインのチョコレートを用意しておくことに決めた。
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