Dear my girl
「そんなこと、全然思ってないよ!」
急いで否定してから不安になった。
先ほどから一孝が何か言いたげだったのは、彼自身がそう思っているからではないかと。
「涼元くんは、そうなの……?」
「そんなわけねーだろ。長い片思いにようやく終止符を打てたってのに。……谷口が謝ってくるから、もしかしてって思った」
やんわりと手を握られ、沙也子は胸の奥が熱くなるのを感じた。
この人は、本当に沙也子のことが好きなのだ。
沙也子が「やっぱりやめる」と言い出すのではないかと不安になるくらいに。
少しずつでも気持ちを返したいと決意したばかりだ。
恥ずかしがったり、意地を張るのはバカみたいに思えた。
「あのね、さっき、パイの中にハートのにんじんを入れたり、ハンバーグをハートの形にしたり……」
「えっ!」
気づかなかったと思ったのか、一孝は顔色を変えた。
沙也子は慌てて首を振った。
「ち、違うの。そうしようと思ったけど、恥ずかしくてできなくて」
「……焦らせんなよ」
「だって、涼元くん、甘いもの苦手だし。バレンタインなんて興味ないと思ったし……」
「……好きな子から好意を示されて、喜ばない男なんかいない」
ムッとしたように言われて、胸がきゅうっと締めつけられる。
いてもたってもいられず、今すぐにでも渡したくなった。
「あの、ちょっと待っててね」
沙也子は急いで自分の部屋へ行くと、チョコレートを二つ持って戻った。
ふたりでソファに座り、沙也子はチョコをテーブルに並べて説明した。
「こっちが、わたしが作ったやつ。甘さ控えめにしたつもりだけど、そんなに美味しくないかも……。それと、こっちは買ったやつなの。たぶんこっちの方が涼元くん好みだと思う」
保険として既製品も用意していた。大人の味だと書いてあったので、間違いはないはずである。
見比べるまでもない性急さで、一孝は沙也子のチョコがいいと言った。
しかし、言ったきり、取ろうとしない。
少し迷ったけれど、沙也子は自分が作った方のチョコを手に取り、一孝に差し出した。
「遅くなってごめんね。涼元くんのことが好きです。これからも、よろしくお願いします」
かしこまった挨拶がツボに入ったのか、一孝は笑った。
その笑顔が本当に嬉しそうに見えて、沙也子はもっと早く渡せばよかったと後悔した。
沙也子が作ったのはハート形の一粒タイプで、チョコの甘みをマイルドにするためナッツを乗せてある。
機嫌良さそうに食べているので、味は大丈夫なようだ。
胸を撫でおろしつつ、沙也子は既製品のパッケージを開けた。こちらは自分で食べてしまうつもりだ。
大人の味と謳っていても、所詮はお菓子。沙也子が食べたとて問題ないだろう。
箱を開くと、宝石のように綺麗なチョコレートたちが収まっていて、沙也子はさっそく一つ口に含んだ。
濃厚でしっとりとした舌触りのチョコに歯を立てれば、中からトロッとした液体が流れてくる。
飲み込んだ途端、体が一気に熱くなり、頭がふわふわし始めた。