Dear my girl


* * *


 朝から非常にヤキモキしたものの、一孝は無事に沙也子からのチョコを、手ずからゲットすることができた。

 なにやら申し訳なさそうな沙也子を見て、さっそく別れたいのではと誤解したり。
 やけに夕食が豪華で、これがバレンタインかもしれないと納得しかけたところで、隠れアイテムに気づかなかったのではと焦ったり。


 本当になんだかんだありつつ、諦めなくてよかったと思う。


 安堵と嬉しさが交じり合い、一孝はすぐに箱のリボンをほどいた。

 開けてみると、ハートの形の一粒チョコが並んでいる。ナッツが乗っていることに沙也子の気遣いを感じて、頬が緩んだ。
 口に入れてみれば、ナッツのアクセントがちょうど良く、甘いものを苦手とする一孝でも美味しかった。
 いや、どろどろに甘いとしても、沙也子からのバレンタインなら喜んで食べるのだけど。


 沙也子は真剣な表情でこちらを見ていたが、一孝の反応に満足したようだった。安堵を滲ませ、既製品の方を食べようとしている。

 手作りがありながら、なぜ一孝が既製品を選ぶなどと思ったのか。

 相変わらず沙也子の考えは読めないと思っていると、とんと肩に重みを感じた。

 ふわっと甘い香りがする。
 最近覚えた彼女の香り。

 沙也子が一孝にもたれかかっていた。

「た……谷口? どうした?」

「これ……、美味しいけど、お酒入ってたみたい」
 
 ひったくる勢いで箱を取り上げると、それはチョコレートボンボンだった。
 
(そういうことか)

 沙也子はこれなら一孝も気に入るのではと思ったのだろう。
 
 コロンとしたチョコの中に洋酒が包まれているもので、酒が入っていようが、分類は菓子。沙也子が食べたところで問題はないけれど。
 微量とはいえ、明らかに酒が弱そうな彼女が心配になった。

「大丈夫?」

「ん……、ぽかぽかして気持ちいい」

 ふわふわと気分が良さそうなので、一孝はホッと息をついた。

 しかし、とてつもなく危険なほど、目の毒である。
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