Dear my girl

 ふたりで同じ内容のお弁当を食べるというのは、なかなか気恥ずかしいものがある。
 手抜き感満載だから、なおさらだった。

 一孝は食べるスピードが速く、あっという間に無くなったのが幸いだった。
 沙也子もせっせと箸を運び、お弁当箱をハンカチで包んだところで、ようやく一息ついた。

「お茶飲む?」

「うん」

 沙也子のステンレスボトルは、直飲みタイプだった。
 受け取った一孝は一瞬ためらい、蓋を開けて直接口をつけた。沙也子はそこで、間接キスだったのだと気づいた。

 しかし今さら照れてしまえば、彼も気にするかもしれない。沙也子は平静を装った。

 上下する喉仏に、妙にドギマギしてしまう。
 思わず見とれていると、一孝の目元に薄っすらと隈を発見した。

「涼元くん、なんか疲れてる? 朝もちょっとしんどそうだったけど」

 突っ込まれたことが心外だったのか、彼は少し目を瞠った。気まずげに視線をそらし、沙也子にボトルを返してくる。

「ちょっと寝不足なだけ」

 いつも沙也子の分まで勉強の面倒を見ているので、疲れがたまっているのではないかと思った。

 盗撮の件で心配をかけた時も、みんなへのお礼は一孝が支払ってくれたというのに、沙也子は彼に何もできていない。

(少しでも、わたしにできることがあれば……)

 頭の中で豆電球が光った。

「肩もんであげようか」

「……。……は?」

「前に、クラスの女子にやってもらったことがあるの。すごく楽になったんだよ。コツを教えてもらったから、やってあげる。ね?」

 我ながらナイス名案だと思い、何やら固まっている一孝の袖を軽く引いた。

 ハッとした一孝は、身を引きながら首を振った。

「……遠慮しとく」

「ちょっとだけだから」

 彼が引き気味なのは見ていて分かったが、沙也子は引くに引けない気持ちで食い下がった。とにかく、少しでも役に立ちたい一心だった。

 ひたすら見つめていると、一孝は言葉を詰まらせた。根負けしたように、軽くため息をつく。

「……分かった」
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