Dear my girl
ベンチに座ったまま体ごと横を向いてもらい、沙也子はその後ろで膝立ちになった。
肩にぐっと指を押し入れる。一孝は少し体を強張らせた。
「……っ」
「あ、ごめん、痛い?」
「……くすぐったいっつの」
力が弱かったらしい。今度は体重をかけて、ぐいぐい押し込んでみる。
凝っているとその場所がごりごりしているのだと教わった。あちこち触ってみるけれど、一孝に凝りは見られなかった。引き締まっていて、実に綺麗な背中だ。
特に凝っていなくても、疲れはたまっているだろうと思い、沙也子は一生懸命マッサージした。
無理やりやらせてもらっている手前、ちゃんと効いているのか心配になってくる。沙也子は一孝を覗きこんだ。
「あの、気持ちいい……?」
「もういいっ、もういいからっ 終わり」
一孝はさっと立ち上がった。
ステンレスボトルを手に取り、蓋を開けて一気に煽る。
ひとしきり飲むと、いくぶん落ち着いたようだった。ふう、と口元をぬぐい、沙也子を見た。
「戻るか。今度から、一人の時は声かけろよ」
「う、うん……」
疲れを取るどころか、むしろ増しているようだった。
まるで役に立てなかったことに、しょんぼりしながら教室に戻ると、ちょうどクラスメートの竹内も中に入るところだった。以前、沙也子の肩をもんでくれた女子だ。
沙也子はさっそく教えてくれたことの成果を報告した。
「……それで、涼元くんにやってあげたんだけど、わたしじゃ下手みたいで。もう一回コツを教えてもらっていい?」
いつかリベンジするべく彼女に頼むと、竹内は何とも言えないような複雑そうな顔をした。
「き、気の毒~……」
「えっ、気の毒って、なにが? 下手すぎて?」
あまりにも予想外の反応で、沙也子は焦った。
「まあ、そこが谷口ちゃんのかわいいところだもんね。いつまでもそのままでいてね……」
竹内は幼子を見るような慈愛に満ちた目で、沙也子の肩をぽんぽんと叩いたのだった。
(後日談・了)