Dear my girl

 午前中は一緒に食材の買い出しに行き、午後は思い思いに過ごした。

 一孝はローテーブルにノートパソコンを置き、レポートを進めている。
 理系の3人は理学部に進学し、特にやよいは毎日楽しそうだ。見ているこちらの方がげんなりしてしまう授業量なのに。

 ちなみに沙也子と律は文学部に進学し、律は編集者を目指して国文学科に、沙也子は心理学科を専攻した。

 中学時代、耳が聞こえなくなって入院した時に、とても親身になってくれたメンタルケアの先生がいた。
 将来のことを考えた際、あんなふうになれたらいいなと思ったのだ。

 救ってくれた恩は忘れないし、辛い思いをする子に沙也子も寄り添うことができたら……。その思いを一孝に伝えると、応援すると言ってくれたので心強かった。
 スパルタがレベルアップすることまでは考えていなかったけれど。

 そのおかげで志望どおり進学できたのだから、沙也子は非常に感謝している。
 


 あらかた家事を終えた沙也子は、一孝にコーヒーを入れた。
 自分の分には牛乳を足し、彼の隣にそっと座る。

 画面を覗き込んでみても、まったく理解できない文字列が並んでいる。一孝は時折ぱらぱらと本をめくり、淡々とキーボードを叩いている。

 息をひそめて大きな手を見ていると、一孝がふっと笑みをこぼした。

「喋っていいけど。なに黙ってんだよ」

「いいの? 邪魔になるかと思って」

「全然」

 その集中力の強さは沙也子にはとうてい真似できない。じゃあお言葉に甘えてと、訊いてみたかったことを口にした。

「男女の友情ってどう思う?」

 一定のスピードを保っていた一孝の手がピタッと止まった。一拍おいて、沙也子をちらりと見る。

「なんで」

「涼元くんがどう思うか知りたかったの。そんなに変なこと訊いた?」

 一孝が眉をひそめるので、首をかしげてしまう。
 彼は視線をさまよわせ、慎重に考える素振りをした。

「お互いが同じ感覚で友情を感じるなんてありえねーよ。俺的には成立しないと思ってる」

「律とやよいちゃんは?」

「俺の中では、谷口の友達って感覚」

 なるほどと沙也子は頷いた。沙也子にとって黒川の位置づけも同じだ。

 そもそも友達が少ない人なので、尋ねる人選を間違えたかもしれない。今度黒川の意見も訊いてみようと失礼なことを考えているうち、一孝はパソコンを再開した。軽快なタイピング音。

「谷口はどう思う」

「んー、わたしもないかな。大学だと、涼元くんと黒川くん以外はやっぱりちょっと怖いし……」

「黒川と俺は同じレベルかよ」

 わざとらしく少し拗ねてみせた一孝だったが、ふと手を止めた。

「大学だと……? 誰かに何か言われた?」

 今度は身体ごと向き直る。
< 118 / 164 >

この作品をシェア

pagetop