Dear my girl
「うん、友達になりたいって。わざわざそんなこと言うなんて、なんかおかしいよね」
「……誰?」
「同じ講義取ってる男子。全然話したことないのに。もしかして、わたしに奇跡の水でも買ってほしいのかな」
あらためて考えてみれば、胡散臭さしか感じない。それはそれで断るのが非常に面倒そうだった。
うんざりしていると、一孝は大げさにため息をついた。
「ちげーよ、あほか。それは谷口のことが、」
「わたしが?」
一孝は複雑そうな顔で言葉を詰まらせ、そのまま口ごもった。
言葉の続きを待っていると、パソコンの画面が目に入る。
レポートを完全に中断させてしまっていることに、今さら気がついた。
「うわっ、ごめん。結局ずっと邪魔しちゃった」
気の利かなさを反省しつつ、どうぞどうぞとパソコンに向かって手を差し出した。
一孝は何やらもの言いたげな様子だったが、しぶしぶといった感じでパソコンに目を戻した。
カタカタとキーボードを叩く音が響く。
喋っていいと言われたけれど、沙也子は一孝といるときの、こうした沈黙が心地いいと思っている。
彼が何かに集中している姿を眺めるのが好きだった。その横顔も。
穏やかな時間。黙ってそばにいるだけで、心が落ち着いてくる。
ふと目を開けると、いつの間にか横になっていた。緩やかな空気に誘われて、気がつけば眠ってしまっていたのだ。
あわてて時計を見てみれば、軽く2時間は経っている。もう夜だった。
身を起こすと、ブランケットがはらりと落ちた。
部屋の中はあたたかく、むしろブランケットによって暑いくらいだが、一孝の気遣いはありがたかった。
彼はレポートがひと段落着いたらしく、本を読んでいた。
沙也子に気づき、ぱたんと閉じる。
「ごめん、寝ちゃった。お腹すいたよね。すぐ用意する」
急いで前髪を手ぐしで直し、立ち上がりかけたところで手を掴まれた。
そのまま引かれて、ぽすっと一孝の足の間に納まった。
「涼元くん?」
「すげえ減った」
こめかみにちゅっとやわらかい感触がして、顔が熱くなる。
「だ、だから、すぐに作……」
指で顎を掬われ、言い終わる前に唇が重なった。
そのままゆっくりと押し倒されて、一孝が見下ろしてくる。
「食べていいか」
熱のこもった眼差しに、胸がとくとくと高鳴った。
あたたかい手が沙也子の頬を撫でる。
一孝は沙也子の瞼に唇を落とすと、額をこつんと合わせた。
「あー……、マジ同じ大学でよかった」
独り言のようにしみじみと言われて、沙也子は思わずクスッと笑った。
そんなに喜んでもらえると、頑張ったかいがあるし、沙也子も嬉しい。
「わたしも」
心のままに微笑むと、再び唇を塞がれた。
すぐに舌が入ってくる。そっと口内をかき回されて、身体に甘い痺れが走った。
食事の支度が気になりつつも、沙也子は優しい唇に身をゆだねた。