Dear my girl
職員室に入ると、すぐに担任が気づいた。
「谷口さんだね。担任の松永です、よろしく。ご家族のことは聞いているよ……なにかあれば、遠慮なく相談してほしい」
おそらく40代ほどの男性で、穏やかな笑顔と恰幅のよさは、思わず安心感を覚えるフォルムだ。沙也子もつられて頬が緩む。
松永は、ところで、と一孝を見やった。まるでものすごく珍しいものを見るような顔をしている。
「場所を訊かれて案内してやったのか? 優しいところあるじゃないか」
「幼馴染なんで」
「え?」
「じゃあ、あとはよろしくお願いします。谷口、終わったらそっち迎えに行くから」
言うだけ言って、一孝は職員室を出て行った。松永は唖然として沙也子に尋ねた。
「え、なに、保護者?」
「……友達です」
後見人のことや一孝の隣に住むことは伏せ、沙也子は親戚の家に世話になっている設定だ。住所は普通に申告したが、わざわざ調べて隣だと気づく人はいない……と思いたい。一孝を煩わせないように、今後は距離感に気をつけようと心に留めた。
「谷口沙也子です。よろしくお願いします」
担任からクラスメートに紹介され、あたたかい拍手で迎えてもらった。かなり緊張していたようで、ふーっと体の力が抜ける。
指定された席に座ろうとして――見知った顔があることに気がついた。
さらさらの綺麗な黒髪、すっきりとした切長の瞳。以前仲良くしていた、森崎律だった。
(うそ! 同じ高校? また会えるなんて……)
小学生のときも妬まれるほど可愛かったけれど、アジアンビューティさながら驚くほど美しくなった。嬉しさのままに小さく手を振ってみたが、律はすっと視線を外した。
(あれ、覚えてないかな。……それとも、怒ってる?)
律にも手紙を書くと約束していた。
一度も、出せなかった。