Dear my girl
* * *
次の講義が休講となったため、沙也子は時間つぶしにカフェテリアで読書をすることにした。
季節は梅雨入り目前。どんよりした天気が続いていたけれど、今日は気持ちのいい快晴だった。窓から差し込む光で、フロア全体が明るい空気に包まれている。
絶好の読書タイム。事件の真相がいよいよ明らかになる場面で、沙也子は死んだキャラが実は生きていて犯人ではないかと睨んでいるのだが、どうなるか……。
ココアをお供に、わくわくしながらページをめくったところで、
「谷口さん。ここいい?」
いきなり声をかけられ、身体ごとビクリと揺れた。
顔を上げてみれば、沙也子と友達になりたいと言ってきた男子だった。
同じ講義が休講なのだから、いても不思議ではないのだが、沙也子はその存在を完全に忘れていた。
「あ、えっと……」
読書を邪魔された気持ちと、ヤバいという気持ちがごちゃ混ぜになり、つい顔に出てしまった。
そもそも他にもたくさん席は空いている。
どう断ればいいか、沙也子が目をうろうろさせていると、男子は小さく噴き出した。
「ごめん、そんなに困らせるとは。友達ならいいかなと思ったんだけど……この間言ったことは忘れて」
相手はすまなそうに苦笑して、頬をぽりぽりとかいた。
(本当に、ただ友達になりたかったってこと?)
「どうしてわたしと?」
思わずじっと見つめると、男子は少し顔を赤らめた。
「覚えてないと思うけど、入試の時、隣だったんだ。消しゴム忘れてあたふたしてたら、谷口さんが2個持ってるからって、俺にくれてさ。それで、その、入学式で見かけた時嬉しくて。それからずっと見てて……」
(そういえば、そんなことがあったような)
筆記用具のトラブルを恐れた沙也子は、実は2個どころか消しゴムを5つ持っていた。シャーペンは7本、替え芯ケースは3個。
消しゴムは100均で購入したセットのものだし、そこまで感謝されると逆にいたたまれない。
「そうだったんだ。お互い受かってよかったよね。気にしないで」
沙也子はにこっと笑ってから、カップに残っていたココアを飲み干した。
本を鞄にしまって席を立つ。
「じゃあ、わたしそろそろ行くね」
「ま、待って! あのさ、やっぱり、」
いきなり距離を詰められ、ぎくっとしてしまった。反射で身を引いた時、
「沙也子」
横から低い声がかぶさった。
気づかないうちに一孝がそばにいて、沙也子は驚いてぽかんと見上げた。
一孝が沙也子を名前呼びするのは、真剣な話をする時か甘い時なので、咄嗟に頬が熱くなった。
いったいどうしたのかと思っていると、一孝は威嚇するような視線を男子に向けた。
(……なんか怒ってる?)