Dear my girl
4.
ホームルームが終わり、沙也子はさっそく律のところへ行くべく席を立つ。けれども、それより先に女子に囲まれてしまった。
――律と視線が絡み合う。
先ほども、今だって確かに目が合っているのに、律はごく自然に顔をそむけた。落ち込む間も与えられず、質問ラッシュが飛び込んでくる。
「ねえねえ、谷口さん! 涼元くんと一緒に学校きてたよね? なんで?」
「怖かったでしょう。大丈夫? なにかキツいこと言われなかった?」
「職員室に案内するのを見たって人がいるけど、ほんと? あの冷血漢がそこまでするなんてガセっていうか、幻?って話なんだけど」
あまりの勢いに度肝を抜かれながらも、沙也子はどうにか笑顔をこしらえた。
「わたし、小学校のころ、涼元くんと一緒だったから」
謎の雄叫びが響き渡る。
女子たちは、息を吸い込んで見つめ合った。
「小学校〜。そっか、あのアイスマン涼元にも子供の頃はあったんだ……」
「ていうか、やっぱり昔からあんなに冷たかったの?」
続けざまに言われ、沙也子は急いで否定した。
「そんなことないよ。今だって」
「ええー、だって、威圧感ハンパないし、必要最低限しか話さないし、言葉もキツいし。頭が良くてそこそこ格好よくても、あれは無理……めちゃ怖いもん。ま、時々無謀にも告白する猛者がいるけどね」
「頭、いいんだ?」
「そこ? うん、なんでうちに来たの?ってレベル。我が校初の東大合格者出るかもって言われてる」
「へえ……」
はたして彼は今も優秀だった。バイトばかりで勉強はおろそかにしているなど、とんだ濡れ衣だ。沙也子は心の内で土下座した。
それにしても。
昔も女子たちから少々恐れられていたけれど、拍車がかかっているのはどうしたことか。一孝は一見冷たそうに見えるが、口が悪いだけで、分かりにくい優しさの持ち主なのだ。誤解されているのは忍びない。
そのとき、教室のドアが勢いよくガラッと開き、きゃああっと女子たちの華やかな声が聞こえた。
(えっ、なになに?)
異様な空気を感じてあたりを見回していると、突然誰かが目の前に来て、机に両手をついた。
「へー、きみが噂の転校生ちゃんかあ」
韓流のように前髪を厚めに整えた髪型はミルクティー色で、着崩した制服。左耳にピアスが2つついている。いかにもチャラい男子なのだが、高い身長に童顔というギャップが、それをマイルドにしていた。
軽そうだがイケメンである。女子が色めき立つのも頷ける。
「えっ、あの、噂って?」
ていうか、誰?
チャラい男子はにやにやと笑みを浮かべ、指先でピアスをいじった。
「あの涼元と一緒に登校してきたじゃーん。あいつが女子と歩くのなんて、初めて見たわ」
「はあ……」
なぜあれほど注目されていたのか、もう嫌というほど気づいた。一孝はそこそこ有名人であり、気難しい彼が女子を連れていたのがよほど珍しかったのだ。