Dear my girl

「そっちが訊いたんだろ。飯にするか風呂にするか沙也子にするか」

 何を今さらというように、一孝はムッとした。

 沙也子は自分を選択肢になど入れていないはず……。
 このままではまずい気がして、沙也子は必死に考えを巡らせた。

「き、今日、月曜だよ?」

「ルールには例外がつきものだろ。つか、この週末しなかったんだし、あんな出迎えされたら、いいかげん限界」

 沙也子は「うう……」と呻いた。
 週末は長時間のバイトで疲れていて、一緒にいても、うとうとしてしまっていた。……つまり、寝落ちである。
 一孝はなんてことない顔をしていたので、気にしていないと思い込んでいた。

「でも、ハンバーグ作ったのに」

「後で温めればいいだけだし、沙也子の料理は冷めても美味いから問題ない」

「そ、そうだ、鼻血出るって……」

「さんざん脳内に現れたくせに……。イメトレ充分なんだよ」

「イ、イメトレってなに……」

 沙也子が真っ赤になって絶句していると、一孝はこつんと額を合わせた。

「嫌……? それならやめる」

「う……」

 そう言われてしまえば。
 沙也子の答えなんて決まりきっている。

「これ……お礼になってる? 涼元くん、嬉しい……?」

 思い切って訊いてみると、一孝は小さく笑った。

「すげー嬉しい」


 沙也子は一孝の頬にそっと手を伸ばした。

「沙也子?」

 沙也子だって一孝が好きだし、触れ合いたい。
 その幸福を教えてくれた人に、ちゃんと素直に伝えたいと思った。

 ちゅっと唇を寄せると、一孝は一瞬身体を強ばらせ、喉の奥をぐっと鳴らした。

 後頭部に手が回り、何度も角度を変えて唇が重なる。ぺろっと唇を舐められて、沙也子はおずおずと口を開けた。すぐに舌が入ってくる。

「ん……、」

 一孝は沙也子の腕を取り、自分の首に誘導した。

「掴まってて」

 言われたとおりにすると、胸に彼の手が触れた。
 形を確かめるみたいにやわやわと包み込む。時折きゅっと力を込められて、沙也子は肩をすくめた。

「は……っ、んっ」

 襟元のリボンはつけたまま、ブラウスのボタンがぷちぷちと外されていく。
 背中に手が回り、一孝は服の上から下着の線を指でなぞった。ふっと締めつけが緩くなる。
 ギンガムチェックのエプロンなどはそのままに、胸だけをさらけ出す格好になり、沙也子は羞恥に顔を赤らめた。

「あの……、恥ずか、」

「沙也子……可愛い」

 胸の先を口に含まれ、身体の奥が熱くなっていく。

「……んっ、ん」

 いつまでたっても慣れない。

 しかも、いつものように横になっているよりも、こうして着衣のまま向かい合っている方が何倍も恥ずかしいなんて。いったいどういうことだろうか。





「……んっ、あっ 涼元くん、すずもとく、すき……、あっ、もう、もう無理なの、」

 ぐずぐずと目を潤ませても、一孝は優しく揺らすだけだった。あやすように口づけ、沙也子の涙を吸い取ってはまたキスを落とす。

「俺も好き。先に謝っとくけど、一回じゃ終わんねえから」

「……えっ、あ、やぁあ……っ ん、んー……っ」

 ひっきりなしに漏れ出る声を唇で塞がれて、甘い息苦しさに沙也子は再び昇りつめた。


 霞がかっていく思考の中で、今後この制服を一孝の前で着るのはやめようと思った。





 翌日。
 森崎律は、どことなくだるそうにしている沙也子を見て、自分の軽率な提案を激しく後悔した。効果がありすぎたらしい。

 彼女の恋人は、しれっとしつつも、沙也子のことを気にしているのがバレバレだった。おそらく内心では反省していると思われる。

 律はそんな一孝に、心から呆れた目を向けたのだった。
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