Dear my girl
譲れないポジション 2
テストの合間の空き時間に、沙也子がラウンジを覗いてみると、理系の3人を見つけた。
同じ学部らしき男子が一孝に手を合わせていて、黒川とやよいはそれを傍観しているようだった。
(どうしたんだろ。涼元くんに、テストのヤマ張りでも頼んでるのかな)
でも、今頃?
なんとなく近づけずに眺めていると、手を合わせていた男子が沙也子に気がついた。
「あっ、いいところに! 彼女さんからも言ってもらえないかな。涼元に一度くらいはクラコン参加してほしいんだけど」
「クラコン?」
沙也子がぱちくりしていると、一孝は男子に剣呑な目を向けた。
「そいつは関係ねえだろ。勝手に話しかけんなよ」
「おっとー、聞きしに勝るですな」
男子は一孝の視線を気にすることなく、にやにやと笑った。
「涼元さ、一回もクラコン……まあ、親睦会みたいなもんかな、参加してくれなくて、幹事の俺は困ってるんですよ。もちろん強制じゃないけど、一度くらいはみんな揃ってみたいじゃん。来週の水曜で全部テスト終わるし、打ち上げも兼ねて集まるんだけど、バッサリ断られててさ。彼女さんからも後押ししてくれないかな。お願いっ」
それで手を合わされていたのだと納得した。
こうして沙也子にまで頭を下げられては、なんとなく無下にはできなかった。
「一回くらい参加してみたらどうかな。そういうのって、行ってみると、けっこう楽しかったりするし」
にこっと微笑みかけると、一孝は苦い顔をした。
少し逡巡し、腕を組むと、ものすごく嫌そうに「……分かった」と言った。
「マジで! やった! 彼女さん、すげえ」
理学部の男子は手を叩いて喜ぶと、沙也子にお礼を言って、跳ねるように去って行った。
「あ、あの、ごめん。そこまで嫌だとは思わなくて。今さらだけど、無理しなくてもいいんじゃない?」
自分の発言が思った以上に軽率だったと不安になった。なにも無理に行ってほしいわけではない。
それに、テスト期間が終わる日は、沙也子だって一孝と過ごすのを楽しみにしていた。
それなのに後押ししてしまったのは、沙也子が一孝の世界を狭めているのではないかと思ってしまったからだ。
市村に言われた言葉の棘は、まだまだ沙也子の胸にちくりと引っ掛かっている。
「一回行けば、これからはもっと断りやすくなる。しかもお前、未だに俺に友達がいないって心配してるだろ」
ことあるごとにそう言っていたのを、だいぶ根に持っているらしい。
えへへと誤魔化すと、一孝は沙也子の頬を指で摘んだ。
「いたた……、今は思ってないってば」
今まで成り行きを見守っていた黒川が、あっけらかんと笑った。
「いやー、あいつ、目の付け所がいいわ。涼元の弱点ついてくるとは」
「まあ、丸わかりっちゃ、丸わかりですからねえ」
やよいもくすくす笑った。
なんだかこの二人似てきたなあと思いながら、沙也子は尋ねた。
「やよいちゃんたちも行くの?」
「はい、わたしも初めてなんですけど、前期も終わるし、一度くらい顔出してみようかと」
「それで幹事も全員出席目指して張り切っちゃったんだよねー」
黒川がおかしそうに言い、一孝がじとっとやよいを睨む。
やよいは「あわわ」と小さくなった。矛先をそらすように沙也子に訊いてくる。
「沙也さんの方は、そういう集まりあります?」