Dear my girl

「うーん、あるみたいだけど、わたしも断っちゃってるから。涼元くんのこと言えないよね」

 沙也子は苦笑して肩をすくめた。

 基本的に人見知りなので、あまり人が多い集まりは緊張してしまう。
 世界が狭いのは沙也子の方で、まったく人のことは言えないのだった。
 自分はそれでいいけれど、彼にもそれを押しつけようなんて思っていない。

 そんなことを考えていると、一孝がじっと見つめてくるので、沙也子は少したじろいだ。

「なに?」

「そういうの行く時は、絶対、前もって教えて」

「ないと思うけど……分かった」

 一応同居のような形なので、当初から沙也子は自分のスケジュール(というほどのことはないけれど)を一孝に前もって報告するようにしている。
 今さらのことだが、沙也子は素直に頷いておいた。

 それより、気になっているのは、市村という女子のことだった。

 告白はどうなったのだろう。
 一孝は何も言ってこない。

(わざわざ、わたしに言わないだけ……? それとも、これからなのかな……)
 
 彼らのクラス親睦会が全員参加ということは、当然彼女もいるわけで。

 一孝に参加を勧めたのは沙也子だ。もやもやする資格などないのに、心にどんよりと影が差した。


 すぐ週末というのも、間が悪かった。

 普通に過ごしているときは、まだよかった。
 ご飯を食べながら、テレビを見ながら。大学のことやテストのことなど、二人でいろんな話をする。
 市村のことが胸の奥にくすぶっていたが、沙也子はその思考に蓋をし、いつもどおりにふるまうことに全力を注いだ。


 ダイニングテーブルでテスト勉強をしていて、日付が変わったころ、一孝が「そろそろ寝るか」とノートパソコンを閉じた。

「わたし……、もう少しやる。ちょっと不安な科目だから」

 疲れていたけれど、なんとか引き伸ばしたくて、沙也子は悪あがきした。
 目を細めた一孝は、小さくため息をついた。

「お前な、受験の時も言ったけど、睡眠削ってだらだらやっても効率悪いだけ」

「……そうでした」

 そう言われてしまえば、続けるわけにはいかなかった。
 渋々テキストとノートを片付けると、一孝は沙也子の頭に手を置いた。

 優しく微笑まれて、胸の奥がぎゅっとなる。
 甘えたい気持ちがうずき、沙也子はそれを必死に押しとどめた。


 一緒にベッドに入り、瞳を閉じると、瞼にちゅっとやわらかい感触がした。
 びっくりして瞬けば、至近距離で見つめられていて、胸が高鳴っていく。

 視線を交わしたまましばらく動けずにいると、一孝は沙也子の頬に手を添え、唇を重ねた。触れるだけのキスをした後、首筋に顔を埋めてくる。

「……んっ あ、あの……、待って。あっ、」

 一孝の手が優しく沙也子のラインをたどっていく。気持ちとは裏腹に身体がびくびくと反応する。

 甘えたいのに、心が苦しくて。沙也子は一孝の袖をぎゅうっと掴んだ。

 どうしてもそういう気分になれそうもなく、このまま続けられたら、きっと泣いてしまう気がした。

 けれども、それは自分勝手なことだった。
 以前に、触れられて嬉しいと。嫌とか無理とか思っていないと言ったのは沙也子だ。

 そう思って沙也子が身体の力を抜いた時、一孝の動きが止まった。
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