Dear my girl
「それで……えと、わたし、最近考えてたことがあって」
いよいよ核心に触れる時が来て、沙也子は自分の手をぎゅっと握った。
悩んでいたことはバレているのだ。沙也子は勇気を振り絞った。
「涼元くん、小1の、わたしが迷子になったあの時から好きだったって言ってくれたけど。もし出会わなければどうなってたのかなって……」
「……え?」
もちろん一孝の気持ちを疑っているわけではないけれど、なんの取り柄もない沙也子をどうして好きになってくれたのだろう。
顔を見て話す度胸はなく、沙也子は自分の手元に目を落としながら、とつとつと言葉を紡いだ。
「わたしと出会わなければ、きっと何十通りと涼元くんの才能に見合った進路があるはずなのに。わたしがそれを奪っちゃってるんじゃないかって。だから……」
「……沙也子、なんの話?」
優秀な人を当然周りは放っておかないはずで。どんなに一緒にいたいと思っても、環境が変われば事情が変わってくることもあると思う。
(でも、それでも……)
「だから、わたし、もっと頑張るから」
沙也子は顔を上げて一孝を見つめた。
ひどく動揺した様子の彼は何か言いかけたが、沙也子の真剣な眼差しに口をつぐんだ。
「わたし、自分はどんなに努力しても平均なんだって諦めてた。でも、涼元くんが一生懸命勉強見てくれて、わたしでも頑張ればできるんだって教えてくれた」
どこか揺らいでいるような一孝の瞳を見つめながら、沙也子は続けた。
「頼りなくて、迷惑かけてばかりだけど、少しでも涼元くんに釣り合うように頑張りたい。ずっと一緒にいたいから、誰よりも涼元くんのそばにいたいから。わたしを好きになってよかったって思ってもらえるように、頑張るから……わっ!」
急に抱きしめられて、沙也子は驚いた。
それは少し苦しいほどの強い力で、沙也子が身じろぐと、ますます強く抱き込まれた。
一孝が、深く長いため息をつく。
「……ビビらせんなよ。フラれんのかと思った」
思ってもみない言葉に沙也子は目を丸くした。
「なんでそうなるの?」
「こっちが訊きてえよ」
何か言葉選びがおかしかったのだろうか。昔から順序立てて話をするのが苦手だった。
「ごめん……」
一孝の速い鼓動が伝わってきて、沙也子は彼の背中に手を回した。