Dear my girl
6.
沙也子は律とあちこち歩き回り、自分的にも重要な総合病院や歯科医院、銀行の場所や美容院などをチェックした。
途中で大きな公園を見つけたり、素敵なパン屋を発見してワクワクする。他にも図書館や役所、最寄り駅までの道のりを再度復習し、宿泊施設も把握した。
今ならどこを訊かれても答えられる自信がある。むしろ、忘れないうちに今すぐ訊いてほしい。
気がつけば、けっこうくたくたになっていた。時間を確認すると、もう13時。軽く2時間は歩きっぱなしだった。
「付き合わせちゃってごめん、疲れたよね。どこかでお昼食べようよ。おごるおごる」
手を合わせて沙也子が眉を下げると、律は朗らかに笑った。
「いいよー。このへん散歩なんてしないから、私も楽しかったし。で、さ。おごってくれなくてもいいから、私の行きたいお店に付き合ってくれない? むしろ私が多く出すことになる。絶対」
「え、なに、高いところ?」
「高くはない。ただ、たくさん頼むと思う」
要領を得なかったが、沙也子に反対する理由はない。どんなお店なのだろうかと逆に気になってくる。
「よく分からないけど分かった。お腹ぺこぺこだし、たくさん食べよ」
「ありがとー!」
律が嬉しそうだと、沙也子も嬉しくなる。この際思い切り楽しんで、心のもやもやを吹き飛ばそうと思った。
電車を乗り継ぎ、お店に着いてみると、律がなぜこれほど行きたがっていたか分かった。
So!Kyu!☆Cafe☆
現在律が夢中になっているアニメ、So!Kyu!のコラボレーションカフェだった。
店の入口では、アニメのテーマであるハンドボール部員たちの等身大パネルに出迎えられ、律がさっそくスマホで写真を撮りまくる。
ほぼ満席の店内は、これまたいろいろなスタンドパネルや、作品のモチーフがあちこちに置いてあり、お店が丸ごとアニメの世界だ。大きなテレビモニターには、アニメの映像が流れたり、主題歌を担当している歌手のプロモーションビデオが流れている。
沙也子も律から勧められて履修したばかりなので、興味深く店内を見回した。
席に案内され、メニューを見た律は、瞳をきらきら輝かせた。
「見てよ、この再現度。美味しそう~。沙也子はどこまでアニメ見た?」
「昨日、全部見終わったよ。高知先輩が戻ってきた時は胸熱だった」
「ほうほう、沙也子はたかちーですか……って、あれ?」
「どうしたの?」
律が見る方向に沙也子も目を向ける。壁側の席で、眼鏡をかけた女子がオムライスを食べているところだった。テーブルにはすでにたくさんのお皿やコップが乗っているが、一人で来ているようだ。
「知ってる子?」
たくさん食べるなあと思いながらも律に小声で尋ねると、眼鏡の彼女もこちらに気づき、ギョッとした顔で目をそらした。
「同じ学校だよ。理系クラス。大槻さんっていって、頭が良くていつもだいたい学年5位以内なんだけど……へえー、あの子も送球好きなんだ。ていうか、こういうところで会うと気まずいの分かるわ」
律は肩をすくめて苦笑すると、店員を呼んだ。