Dear my girl

「律……ごめん、わたし、もうギブ……」

「うう……カエデが来ない〜……アオイなんてもう3枚あるのに」


 大槻がなぜたくさん食べていたのか分かった。
食事にはイラストカード、ドリンクにはコースターがそれぞれランダムでついてくる。
 メニューを制覇する勢いで頼んだのに、律の推しである楓だけが当たらない。主要キャラが多いと必ず好みに出会えそうだが、こういう弊害もあるのかと思った。

「あの……」

 お腹をさすりながら顔を上げれば、大槻が立っていた。

「ごめんなさい、聞こえちゃって。よかったら、わたしの楓くんと森崎さんの葵くん、交換してくれませんか?」

 大槻が楓のカードとコースターを差し出してくる。律は大きく息を吸い込んだ。

「いいの? もちろん、私は嬉しいけど!」

「はい、わたしも葵くんを待っていたので。もう帰るところだったから、森崎さんたちに会えてよかったです」

 二次元にあまり明るくない沙也子は、このwin-winの儀式に少し感動した。

 無事に迎えられてホッとしたらしく、律はお手洗いに立った。

「じゃあ、ほんとどうもね。大槻さん」

「はい、わたしもありがとうございました」

 沙也子がカフェラテの残りを飲んでいると、大槻が立ち去らないので、首をかしげた。 

「あの……谷口さん。わたし、あなたと話したいと思ってたんです」

「わたしと? どうして?」

 沙也子は目を丸くした。
 大槻は転校生の沙也子を知っていたかもしれないけれど、沙也子は今日初めて彼女に出会った。何の話か検討もつかない。

「今ここでは、ちょっと。学校で声かけさせてもらいますね。それじゃ、また」

 沙也子がぽかんと見つめるうち、大槻はお店を出て行った。

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