Dear my girl
割り込もうにも、悪化する未来しか見えず、蒼介は息をひそめて状況を見守ることしかできなかった。
「つまり……大槻さんはわたしのことを、心配してくれてるってことでいいのかな。涼元くんのそばにいないほうがいいよって?」
「それは……」
「わたしは中学の涼元くんを知らない。でも、わたしはきっと、あなたよりも涼元くんのことを知ってる。ひとりっきりの寂しさも、分かる」
谷口は、ひとつ大きく呼吸した。
「ひとりぼっちは、寂しいよ」
蒼介は涼元の事情を知らないし、大槻がどう捉えたかも分からない。
けれども、谷口の言葉は、蒼介の胸にゆっくりと響いた。
ひとりぼっちは寂しい。
言葉にすると単純なのが悲しいくらい、本当にそのとおりだった。
空気を変えるように、谷口が「ふふっ」と笑う。
「大槻さんがムカつく気持ちも分かるよ。こっちは一生懸命勉強してるのに、遊んでる涼元くんの方が成績いいってなんなんだよって感じだよね。小学生のとき、本人には怖くて言えないからってわたしが責められたこともあるの。おかしくない?」
なるほど、蒼介にとってはガリ勉の兄と比べて胸がすく思いだったが、大槻のように頑張ってる者からすれば確かにムカつくのだろう。
その涼元が大切にしているらしい彼女(仮)に素行を暴露することで、溜飲を下げたかったのかもしれない。
涼元は小さく舌打ちして「そういうことは言えよ」とぼやいた。谷口が責められていたことを知らなかったようだ。
「でも、涼元くんだって、なにもしてないわけじゃないんだよ。教科書はそれはもうじっくり読み込むし、いつも難しい本読んでたし」
大槻はじっと谷口の話を聞いている。
「きっとみんな、自分との戦いが一番難しいんじゃないかなって思う。今まで平均点を必死にキープしてきたわたしが言うのもなんだけど」
言い切ってしまうと、谷口は恥じるように笑った。
「ごめんね、えらそうに。なんの演説だ……」
対して大槻は、すっきりした顔つきだった。
「……いえ、谷口さんのお話、よく分かりました。わたし、自分のことしか考えてませんでした……。しかもこんな告げ口、涼元くんにも申し訳ないです」
「みんなそうだよ。わたしだって。……でもさあ、」
いきなり谷口が噴き出した。
「友達いなかった涼元くんが、普通に友達できててびっくりしたんだけど。夜遊びで少しは社交性培ったのかな」
大槻は面食らったように瞬き、それから二人でくすくす笑い出した。
蒼介も笑いそうになり、慌てて口を押さえた。涼元は不本意そうな顔でムッとしている。
涼元が大事に思う女の子。
蒼介はその理由が分かった気がした。