Dear my girl
7.
沙也子が腕時計を確認すると、予鈴が鳴る5分前だった。大槻やよいに声をかける。
「そろそろ戻ろうか」
「はい、朝からありがとうござい……」
大槻が真っ青になって固まってしまったので、沙也子は不思議に思いながらも振り向いた。
そこには、一孝と黒川がいた。
思わず目を丸くすると、男子二人は、ばつの悪そうな顔をした。
「ごめん……! 立ち聞きするつもりじゃなかったんだ。俺、谷口さんに謝りたくて、涼元にも事情を話して探してたんだ」
黒川が勢いよく頭を下げる。
沙也子は状況について行けずにいた。黒川の印象がずいぶん違うことにも戸惑った。
「わ、わたし?」
「この間、ひどいこと言ってごめん。今はもう時間がないからさ、悪いけど、放課後にでも話を聞いてくれないかな」
そんな黒川を一孝は見やり、しれっと言った。
「谷口、聞かなくてもいいよ。もう1発殴っとくから」
「ええっ」
よく見れば黒川の左頬が腫れている。
大槻は口から泡でも吹きそうな様子でガタガタと震えた。
「ひ、う……、あ、あの、す、涼元くん。か、勝手に、谷口さんに、すみませ……、わたし、後で謝りに行こうと……、ほんと、です……」
気の毒になるほど怯えていて、まるで狼に睨まれたうさぎのようだった。
一孝は「取って食ったりしねーよ」と呆れた声を出した。
「本当のことだし、謝らなくていい」
「は、はい……っ」
そのとき予鈴のチャイムが鳴り響いた。
慌ただしく教室に向かうことで、それどころではなくなり、4人の気まずい空気は消えていた。