Dear my girl
翌日、体育の時間にその話を律にすると、思いっきり呆れられた。
「そんなの、教えてもらいなよ。学年一位の方から言ってきてるんだよ? 立ってるものは涼元でも使えって言うじゃん」
「その例えおかしくない?」
体育は男女別に3クラス合同で、それをさらに種目で分ける。沙也子と律はバレーボールだった。今はコート脇で順番を待っているところだ。体育館を中央で仕切り、向こうのコートでは男子がバスケをやっている。
沙也子はため息をついて膝を抱えた。額を膝につけると、ずいぶんひんやりしていて、ハーフパンツでは冷える季節になってきた。次回の体育はローテーションで陸上競技の番だ。長ジャージを持ってこようと考えながら、律を見上げた。
「確かに、数学赤点取っちゃいそうだから、本当にありがたいんだけど。なんか悪いし」
「だから、涼元から言い出したんでしょうが」
「ノートを見られたの。たぶん引くほど間違ってたっていうか、そう申し出ずにいられないほど酷かったんだと思う……」
体育館の向こうでは、パスを受け取った一孝がシュートモーションに入った。バスケットボールは放物線を描き、ゴールに吸い込まれて行く。黒川がはしゃいで一孝に飛び乗った。もう一人それに続いて、その勢いでべしゃっと潰れた。
一孝は迷惑そうにしながらも、黒川になにか言われて笑った。
こういうところは変わったといえる。皮肉めいた笑みは別として、昔は笑顔など誰にも見せなかった。
嬉しいはずなのに、なぜだか少し寂しく思ってしまう。
「いやいや、むしろチャンスって思ったんじゃない?」
律の声が聞こえて沙也子は振り向いた。バスケを見ていて全く聞いていなかった。
「え?」
にやにやしていた律は、なんでもなーい、と言って伸びをした。そしてなにかに気づき、笑みを浮かべた。
「大槻さん」
沙也子も見ると、大槻やよいがポニーテールを揺らしてこちらにやって来るところだった。彼女もバレーだったのかと、沙也子は笑顔で手を振った。
大槻も嬉しそうに振り返す。そしていそいそと沙也子と律のそばに座った。